代理人による預貯金口座からの現金引き出し

代理人による預貯金口座からの現金引き出し
通常、預貯金口座から現金を引き出す場合には、預貯金口座の名義人(本人)が自ら金融機関の窓口やATMへ行って引き出さなければなりません。しかし、近年は高齢化が進んでいるため、認知症・高齢者など、本人が自ら金融機関に出向いて手続きを行うことが困難なケースが増えてきています。

認知症や高齢者、また身体的な障害、精神的な疾患など、さまざまな事情により本人が金融機関での手続きを行えない場合、家族や支援者が代わりに預金を引き出すことは可能なのでしょうか?今回は、本人以外が預貯金口座から引き出すための法的・制度的な枠組みについて、考えていきます。
● 認知症で成年後見人が立てられている場合 ●
認知症は家庭裁判所の審判を経て「成年後見人」が選任される場合があります。成年後見制度は、本人の財産管理や契約行為を代理するための法的制度です。成年後見人であれば、後見登記の証明書(登記事項証明書)と本人確認書類の提示をすることによって、本人の預貯金口座から現金を引き出すことができます。成年後見人というのは、本人の利益を最優先に考え、生活費や医療費など必要な範囲で資金を管理するからです(成年後見人が勝手に成年被後見人の財産を使うことは法律で禁じられています)。
● 高齢者や身体的な障害を持つ人が身体的な理由で金融機関に行けない場合 ●
原則として、家族が代わりに金融機関へ行って現金を引き出すことはできません。金融機関は本人確認を厳格に行うため、単なる「家族だから」という理由だけでは対応してもらえないのが一般的です。ただし、以下の方法で代理人による引き出しが可能になる場合があります

①委任状による代理
本人が自筆で「委任状」を作成し、家族を代理人として指定する。委任状には、引き出す金額や目的、代理人の氏名・住所などを明記して、本人と代理人の本人確認書類(運転免許証など)を提示します。 ※金融機関によっては、独自の様式の委任状を求める場合もあるので、事前確認が必要です。
②キャッシュカードの利用
本人が家族にキャッシュカードと暗証番号を渡していれば、ATMでの現金を引き出すことはできます。しかし、預貯金口座は本人の財産であり、原則として本人以外が許可なく引き出すことはできません。キャッシュカードと暗証番号があればATMで引き出すことは可能ですが、そのことが本人の意思に基づかない場合は違法行為とみなされ、問題が生じる可能性があります。
● 精神障害で病院から出られない場合 ●
精神障害により入院している人が金融機関に行けない場合でも、原則として本人以外が代わりに預貯金口座から現金を引き出すことはできません。以下のような対応が考えられます。

①成年後見制度の利用
認知症と同様、判断能力が著しく低下している場合は、成年後見制度を利用することができます。
②任意代理契約(委任状)
本人に判断能力がある場合は、委任状を作成することで家族や支援者が代理人になれます。(ただし、精神障害の状態によっては、委任状の有効性が問われることがあるので、ここは慎重な対応が必要です)

③ ケースワーカー・病院職員の代理
原則として、病院職員やケースワーカーが本人の預貯金を引き出すことはできません。例外的に、福祉的支援の一環として、自治体が「日常生活自立支援事業」などを通じて金銭管理を支援することがあります。
代理人が預貯金口座から現金を引き出す場合は「本人の意思」と「法的根拠」が必要になります。金融機関は本人確認を厳格に行うため、代理人による手続きには慎重な対応が求められます。たとえ、家族の善意であっても、法的根拠がなければトラブルの原因となることもありますので、事前に制度を理解して、必要な書類を整えておくことが重要です。

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編集後記
精神疾患による入院と支払い
ご家族が所有していた不動産を売却し、その不動産に同居していた方が売却の少し前に精神疾患のため入院されました。所有権が移転してから入院されている方宛に支払い通知が届きました。差出人などから推察すると未払いの費用があるようです。当然、支払わなければならないのですが、ここで問題が発生します。入院している病院の規則で、本人が金融機関へ行く場合は、職員2名が付き添って、本人が現金を引き出すことになっていました。加えて、本人の体調が安定している時でなければ外出の許可が出ません。ですから、すぐに金融機関へ行って預貯金口座から現金を引き出すということができないのです。そのような事情で、時間が経過して、その間に督促状は何度もポストに投函されました。支払方法は口座振替にしていなかったのか、それとも何らかの理由で口座振替が解除されてしまったのか、詳細は不明ですが、こうしたケースは決して珍しくありません。制度の壁、現場の事情、そして時間の制約、それぞれが絡み合って、簡単には解決できない問題になることもあります。
